YARO会合同練習・3回の総括

本番へ向けて

練習日: 200510/16(日)、11/6(日)、11/20(日)


YARO会指揮者 村上 弘

(男声合唱団ドン・キホーテ)


 

 過去3回の合同練習のうち、大岩篤郎先生が練習中に話され、指示された内容の一部を紹介します。本番に向けての曲づくりの過程の記録として、ここにとどめておきたいと思い、筆者の独断で、3回分を再構成してあります。各メンバーが、下記の内容を十分体得し、また個別の部分でのより詳細な指示事項をぜひ反復して確認し、本番に臨みたいものです。


 大岩先生がこの曲を選曲したのは、あまりに有名で何度も歌われて型にはまってしまい、結果としていつものピエロを聞かされてきたが、今回はもっと違った一人ひとりの内面に持っている裸身のピエロ性を表現したいと思ったからです。


 

『月光とピエロ』

1.「月夜」
 まばゆい。白いピエロが澄んだ月から出てきたような・・いきなりパッと輝いて出てくるような。「白いピエロ」は汚れの無いきれいな色で。「真っ白なピエロ」を音程をそろえて表現したい。
 doloroso(ドロローソ)は苦痛の、苦しさをもって、悲しみをもってという指示だが、それを踏まえつつ悲し過ぎないように。dolce(ドルチェ)とは、甘い心、やさしくという指示。甘い表現が必要。曲中「コロンビーヌ」と入ってくる部分は、いとしの恋人コロンビーヌに対する気持ちを考えて。


2.「秋のピエロ」
 
A-mol(イ短調)とA-dur(イ長調)の間で、明るく(秋の楽しさ)→悲しく→しみじみと(TempoT)へと曲想が変化していく。にぎやかに豊かなひびきで。長調への転調で、逆に哀感を出す。
 「身すぎ世すぎ」:これまでの人生・なりわいと世のならい。ここからは、前半のリズム感のある、はずむ部分と違い、感傷が出てくる。「わがピエロ」:自分の中のピエロを出して欲しい。笑い・泣き・悲しみをさらけ出して。この曲は激しい。演奏の「演」は演じること(例えば心から笑える?)、プラス「奏」でること。
 moderato(モデラート)は早くなく。「秋じゃ・・」はにぎやかに。転調後は一転して静かに。

 金子みすゞの詩にもこれと似たニュアンスの作品がある。海の上の人間世界では大漁を大騒ぎで祝うが、一転、海の中の世界では、魚がごっそり捕えられてさびしい、というような二面性をもった表現で。こちらはしんみりと・・。

(参考)金子みすゞの詩「大漁」:
 朝焼け小焼だ 大漁だ 大羽鰯(おおばいわし)の 大漁だ。 浜は祭りの ようだけど 海のなかでは 何万の 鰮(いわし)のとむらい するだろう


3.「ピエロ」
 
それほどの深みは必要なく、柔軟に。表現に強弱をはっきりとつけて。和音をきれいに決める必要がある。冒頭のユニゾンでは、声区のチェンジを意識して。最後の「まーっしろけー」に白い色・白いイメージを出す。5番の最後も『ピエロ万歳』と歌い上げて終わりたいが、ここも寂しくなく。


4.「ピエロの嘆き」
 
歌い手一人ひとりの人生のこれまでの歩み、味がにじみ出てくるといいが・・。途中、あたかもピエロが踊っているように。最終部分の「なきわらい」で、力なく泣き笑うしかない様子、おれの人生はこれしかない・・という表現で。


5.「月光とピエロとピエレットの唐草模様」
 
誰しも心のうちはわからない。しかし、ここは明るく歌って終わりたい。

 



『秩父音頭』

 曲想は基本的にmarcato(マルカート)で、音符をかために。まずは雰囲気が重要。16分音符を鋭く、派手に。レガート過ぎず弾んで。
 掛け声(語り)のテンポに注意する。かなり駆け出す。また付き合い程度の気分ではなく、途中で気を抜かない。低声は、全般的に重いのでもっと軽やかに。
 歌い終わったときの「顔」が重要。ああ終わった、ああしんどかったではなく、『秩父は本当によいところだ』と最後の表情で伝えられるか・・。

 



 また、以下は練習の合間に話された内容だが、普段の各団の練習にも当然当てはまる、より全般的な内容となっている。

○練習は5回しかないので、できれば休まずに参加して欲しい。休んだ場合も、情報を収集し、「ここはどう歌うんだ?」「あれ、この前と違う」ということのないように。回を追うごとにパート内がどんどんまとまってくるので。

○演奏・練習は生き物。たまたま集まり、たまたまの機会に歌った、たまたまの産物。1回1回を大切にしたい。そして、お客さまに何を聴かせ、何を見せるかが大切。正しく歌えることは当たり前だが、それだけでなく、音楽が表現できるようにしたい。

○合唱は『束木(たばぎ)』のようなもので、芯になる声の人を柱とし、その柱の間をぬうようになめらかに融和させるような声の人など、人により役割分担がある。これらの色々な声が、正しく歌われた上で、しっかりと隙間のないように集まって大きな力となることが必要。

(参考)束木: 薪木の束のこと。細い木をまとめたもの。

○大合唱でのテクニックとして、カンニングブレスをうまく使えるように。特にブレスの指示がない場合、これを使って、フレーズを長く保って欲しい。そしてカンニングでブレスした場合は、あわてて切って、突然大きく入ってこない。十分に吸って静かに邪魔にならないように入り、後は堂々と歌う。

○ブレスは歌ではないので、ブレスの音は音楽にとって一切不要(特にピアノの曲想部分では禁物)。一方、曲の頭では、事前にそれぞれに十分なタイミングを見て吸った上で準備して待つ。直前に吸わない。

○秩父音頭以外の曲は、全て基本的にはレガートであることを忘れずに。日本人には難しいことだが、常に自然な息の流れの上に、響きを乗せていけるように。

○発声時には、つま先に少し重心をかけ、尻をキュッとしめる。上半身は柔らかく、胸を張って首は後ろに引いて。「あ」の母音は、支えを意識して、特に高音の場合は、口を開けすぎないように。

○発声の「チェンジ」する部分(声区)を常に意識して。これは曲の中に頻繁に出てくる。

○楽譜と首っ引きでなく、指揮者が合図をしている、その振りをよく見て欲しい。ディナーミクなどについて表現していくので、そのとおりに。

○指揮者とコーラスの間は、リズムで結ばれていることを意識して。

○ディミニュエンドの指示がある場合でも、歌詞のニュアンスによっては、一旦クレッシェンドして、最後にディミニュエンドというケースもあるので、注意。

○顔の表情でも表現できているか。

○ディミニュエンドしたときに自分の声が残っているようだと、ボリュームが大きいか、音程が違うか、異質な発声かということ・・。自分の声が残らないように、全員が溶け込んで特定のだれかの声が聞こえないように、しかしパートとして一つの音は出ていることを意識して。

 (2005年11月27日)